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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(し)23号 決定 1950年6月26日

主文

本件抗告をそれぞれ棄却する。

理由

抗告人二神正信、同中原岩吉の各抗告趣意はそれぞれ別紙添附の書面記載の通りであって、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。

抗告人二神正信の抗告趣意について。

憲法第三七条第三項(上告論旨に同条第二項とあるは同第三項の誤記と解す)はすべての被告事件を必要的弁護事件としなければならないという趣旨ではなく(昭和二四年(れ)第六〇四号同二五年二月一日大法廷判決)又同条所定の権利は被告人が自ら行使すべきもので裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければいいのである。(昭和二四年(れ)第二八三号同年一一月三〇日大法廷判決)即ち裁判所は被告人の請求がないのに自ら進んで被告人のために弁護人を選任するの義務迄を課せられたものではないのである。そうして本件はいわゆる必要的弁護事件ではなく又記録を調べてみても原審が抗告人の弁護人選任方を妨げた事跡なく而も抗告人から国選弁護人選任の請求があった事実も認められないのである。されば抗告人の側において弁護人選任について所論の事情があったとしても、原裁判所が被告人のため国選弁護人を附さなかったことはもとより当然であるから論旨は理由がない。

抗告人中原岩吉の抗告趣意について。

憲法第三七条第一項は構成その他において偏頗の惧れのない裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を被告人に保障したものであるが(昭和二三年(れ)第一〇一号同年七月一四日大法廷判決)憲法は又裁判所が如何なる訴訟手続に基いて如何なる条件の下に裁判を行うかは法律の適当に定めるところに任しているのである。ところで、旧刑訴法が上告趣意書の提出期限を最初に定めた公判期日の一五日前と定めたのは上告裁判所が裁判の準備をするため必要な期間を存するための要求に基くものであって、上告審において裁判を受けようとする者は右法廷期限迄に上告趣意書を提出すべく、その然らざる場合は上告審の裁判を受けることに努力しないものであって憲法の保障する公平な裁判所の迅速な公開裁判を受くるの権利の行使を自ら怠ったものである。そうして上告趣意書の提出期限を徒過した後最初に定めた公判期日迄に上告趣意書を提出しても右期限の徒過が治癒されるものではない。然るに本件において抗告人は原上告審において適法な公判期日の通知を受け迅速な公開裁判を受ける権利と機会を与えられ乍ら法定の期限迄に上告趣意書を提出せず(尤も抗告人が原裁判所の第一回公判期日迄に上告趣意書を提出したこと記録上明らかであるがこの事を以て右期限の徒過が治癒されるものでないこと前述の通りである)自らその権利の行使を怠ったものである。そうして記録を精査しても原裁判所が抗告人の上告趣意書の提出を妨げた事跡は認められないのであるから原裁判所が上告趣意書不提出の故を以て抗告人の原上告申立を決定を以て棄却したことが迅速な公開裁判を受ける権利を保障した憲法第三七条第一項に違反するとの所論は既にその前提において理由なく、又それが公平な裁判所の裁判でないといえないことも当然である。論旨は理由がない。

よって旧刑訴法第四六六条第一項後段をそれぞれ適用し主文の通り決定する。

右は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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